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熟考して値決めする(マーケティング志向でプライシングを最適化する)

岡村匡倫
Posted by 岡村匡倫 on Jul 22, 2022 11:55:16 AM

 

マーケティング志向のための7つの行動則」の5項目となります。

 

原価を下回る金額で受注を続ければ、

どれだけ売上を伸ばしても、利益を上げることはできません。

 

利益が上がらなければ、将来に向けての設備投資を行うことができず、

従業員の給与を上げることもできません。

そして、赤字に陥れば、会社を継続すること自体が困難になります。

 

企業が継続的な成長発展を遂げるためには、

利益が上がる適正な価格で、お客様に商品をご提供していく必要があります。

しかし、一方で、お客様は、常に、できるだけ安く、購入したいと考えます。

企業は、お客様が買いたいと思う、最も高い金額を見抜かねばなりません。

 

[目次]

1.お客様の「支払意志額」と競合他社の「価格」を見抜く

2.原価を知る

3.より「高く」買っていただく

4.利益の「総額」を最大にする

 

1.お客様の「支払意志額」と、競合他社の「価格」を見抜く

 

お客様が商品の購入を検討されるにあたり、お客様なりの値頃感、相場観があるはずです。

それを支払意志額(Willingness to Pay)と呼びます。

 

もし、支払意志額が提示価格を下回っているようであれば、

お客様は、それだけの価値を感じられない、ということなので、

購入自体を見合わせるはずです。

 

お客様が買ってくださる最も高い価格を見極めるにあたり、

その製品が、お客様にとって、どのような便益をもたらすか、

ということを理解しておく必要があります。

 

Hand takes out dollar money from a wallet with dollar symbol wallpaper

 

しかし、お客様の支払意志額を下回る金額を提示しても、

必ずしも、自社の商品を選んでいただけるわけではありません。

 

なぜなら、市場では、多くの競合が存在しているからです。

 

自社の製品が、競合の製品とまったく同じ性能であれば、

もっとも安い価格を提示しないと、選んでいただくことはできません。

 

たとえば、ガソリンは銘柄での知覚差がほとんどないため、

できるだけ安いガソリンスタンドで購入したいと思うはずです。

 

価格設定2

 

お客様に選んでいただける最も高い金額を読み切るには、

競合がどれぐらいの金額を出してくるのかを見抜くことも、大切です。

 

2.原価を知る

 

市場競争を繰りかえされると、市場価格はみるみる下がっていきます。

そして「売れる」という目線だけで値決めをしていくと、

気が付けば、原価を下回る金額となり、赤字に転落してしまいます。

 

お客様に買っていただける金額を正確に見つけたとしても、

その金額で受注して、自社が利益を残すことが可能かどうか、

見極めなくてはなりません。

 

そのためには、自社の原価を知る必要があります。

(原価の算出は非常に複雑であるため、別章にて記載させて頂きたいと思います。)

 

お客様の買っていただける金額が、原価よりも高ければ、受注できます。

しかし、お客様の買っていただける金額より、原価が高いなら

高く買っていただく」か、「原価を下げていく」しかありません。

 

原価が高い時の対応-1

 

3.より「高く」買っていただく

 

益は、「売価ー原価」です。

 

利益率10%の商品を5%値引きすると、利益は半分になります。

逆に5%値上げすると、利益は1.5倍になります。

 

値上げ、値下げは、売上の増減以上に、損益に大きな影響を及ぼします

売上を増やすために、安易に値下げを行うと、利益は急激に減少します。

少しでも高く買っていただく取り組みも大切です。

 

とはいえ、価格をより高く設定したくとも、競合他社がいる以上、

強気の価格設定ができないのが現実です。

 

もし自社の商品に、唯一無二の独自性があり、画期的な商品であれば、

競合がないので、高く売ることができます。

 

お客様の要望を捉え、自社の事業の「目的」として定め

独自の商品を開発できれば、高い値決めが可能です。

 

しかし、自社の商品に独自性がなく、競合が避けられないのであれば、

お客様にとってのベストである」ことを目指し、

差別化戦略集中戦略に取り組みましょう。

 

その結果、有利なポジションを取ることができれば、

価格を引き上げることができます。

 

価格は、安ければ安いほうが良い、という前提に従えば、

上記が基本的な方針となりますが、

「高いほうが良い」という特殊な状況や、

「商品が高くても買いたい」と思わせる施策が存在します

 

 

シグナリング

 

お客様が、商品の良し悪しが判断できない状態だと、

「価格が高いから、品質も良いに違いない」と、

価格をもって品質を推定する傾向があります。

 

この、「価格が品質の判断材料になる現象」を

シグナリング」と呼びます。

 

お客様が頻繁に買わないもの比較が難しいものを扱っている場合、

安い金額が、お客様の不安を招く可能性があるため、

意識的に、競合他社より高く、値決めすることができます。

 

ただし、支払意志額を超えると購買自体を阻害するので、

競合よりも高く、支払意志額を超えない価格を目指すことになります。

 

 

自己表現ベネフィット、社会的ベネフィット

 

非常に高級な宝飾品、服飾品、装飾品といった商品は、

十分な収入や、立派な肩書の人だけが所有できます。

 

それらを所有しているという事実は、自分自身に対しての自尊心に繋がります。(自己表現便益

また、それを所有しているという事実は、周囲のあこがれの眼差しに繋がります。(社会的便益

自己表現便益

ブランド品は、高い価格設定であるがゆえに、

富裕層しか購入ができず、富裕層の身分証明になっています。

 

高くなればなるほど、自己表現便益と社会的便益も大きくなります。

そのため、高ければ高いほど良い、という現象が発生します。

 

商品に、お客様の自己表現や、周囲へのアピールといった

便益を持たせることができるようであれば

あえて高めの価格を定めてみましょう。

 

 

あえて高級品を見せることで、安く見せる

 

お客様が、商品価格に情報を持っていない場合は、

あえて最初に高い金額を提示し、それを下げることで、

安く見せるという方法があります。

ドア・イン・ザ・フェイス

 

たとえば、賃貸住宅のご紹介で、最初に家賃12万円の住居をお見せした後に、

家賃10万円の住居をお見せすることで、家賃10万円を安く感じさせる、という方法です。

 

また、3万円で販売したい家電製品を、あえて、3万5千円の価格設定を行い、

店頭で3千円の値引きし、3万2千円で割安感を演出する、といった方法もあります。

 

ただし、お客様が十分に情報を集められており、

競合他社との価格に大きく差があると、

お客様からの信用を失うことにもつながります。

 

現在はインターネットから多くの情報が取得できるため、

お客様も事前に情報収集されていることが多く、

高値を提示した段階で候補から脱落する可能性もあるため、

よほど価格がつけにくい商品でない限りは、

慎重に行ったほうが良いかもしれません。

 

安く導入し、切り替えれない状態で、追加料金を請求する

 

 

システム、設備機器といった継続的に使用する商品は、

導入後も、保守やメンテナンスで費用が発生します。

しかし、保守、メンテナンスは、相見積が困難です。

 

保守、メンテナンス費用に納得がいかないからと言って、

一度、導入したシステム、設備機器は、簡単に、置き換えできません。

 

このことを踏まえ、機器本体の価格は、極端な安値を提示し、

その後、追加料金を高く設定することで、収益を確保する方法です。

 

家庭用インクジェットプリンターは、

機器では利益が上がらないようですが、

インク代で収益を上げているそうです。

 

弱みに付け込んでいるようにも見えますが、

お客様の使用状況に応じて、課金すると考えるのであれば、

サービスに課金しているという見方も、できるかもしれません。

 

 

メリットの信頼性を高める

 

支払意志額は、お客様がその商品にどれだけ価値を見出しているか、と同義です。

支払意志額を高めるには、購入するメリットを伝えることが、大切です。

 

しかし、売り手の言葉は、お客様に、信用して頂けません。

信頼性を高めるためには、根拠を固めることも大切です。

 

統計データの活用、教育機関や公的機関のコメント、

権威による裏付け、成功事例のご紹介などが挙げられます。

 

 

デメリットを伝える

 

購入するメリットに加え、購入しないデメリットを、お伝えすることも大切です

なぜなら、購入するメリットと、購入しないデメリットの合計が、

支払意志額に繋がるためです。

 

商品説明の意義

 

お客様の購入しないデメリットを伝える際には、

お客様が認識されていない悪影響を指摘することが大切です。

 

お客様は、大概、多くの問題を抱えています。

優先順位の低い問題は、後回しになります。

 

問題を掘り下げ、悪影響に気付いていただくことで、

お客様は、問題の解決に、緊急性と、重要性を感じます。

問題解決の優先順位が上がれば、購入に前向きになるはずです。

SPIN営業術にて詳細をご説明しています)

 

デメリットを伝えることが、効果的な理由が

ふたつあります。

 

ひとつは、人間には、リスクと損失を回避したい、という強い性向があるからです。(プロスペクト理論

もうひとつは、現状の延長線上は、お客様が想像しやすい、ということです。

 

積極的に、お客様に、購入しないデメリットを伝えていきましょう。

 

 

希少性を高める

 

一般的に、価格は、「需要」と「供給」のバランスで決まります。

 

供給が多く、需要が少なければ、競合が多く発生し、価格が下がり、

供給が少なく、需要が多ければ、競合が少ないため、価格が上がります。

 

つまり、供給を少なくすることで、価格を上げることができます

この現象が顕著になるのが、「一つは必要だが、二つ要らない」という商品です。

限界効用

 

たとえば、新発売の家庭用ゲーム機が挙げられます。

発売当初は、定価を超えるような金額で転売されますが、

発売後、一定期間を過ぎると、極端に価格が下落していきます。

 

家庭用ゲーム機は、1台は必要だが、2台は必要がない商品だからです。

 

供給を絞ることで、不足を維持することができれば、

価格を維持することができます。

 

ただし、競合も同じような商品を出せるようであれば、

価格を維持しようとしても、競合他社が抜け駆けをするので、

失敗に終わることになります。

(業界全体で供給不足を発生させ、価格を吊り上げることが談合です)

 

また、希少性が高い商品は、「手に入りにくいから、手に入れておきたい」という

心理的な、飢餓感、危機感が発生します。

これも、支払意志額を引き上げる一因となります。

 

恣意的に「限定を加える」ことで、

能動的に希少性を高めることが可能です。

 

たとえば、

今しか手に入らないという期間限定

この場所でしか買えないという地域限定

販売数に制限をかける個数限定

会員しか買えない会員限定

など

 

これらの希少性による価格引き上げも、

「どうしても手に入れたい」という熱烈なお客様がいて、

初めて成り立ちます。

 

お客様に強く求められるような商品作りに取り組み、

信用信頼を積み重ねた上で、希少性をもって、価値を高めるようにしましょう。

 

 

動的価格設定、変動料金制、価格変動制

 

ホテル、旅館といった宿泊業は、宿泊客が全くなくても、固定費が、発生します。

そのため、安定的な宿泊数を確保して、最低限の稼働率は守りたい、という意向が働きます。

しかし、ただひたすら、安値を提示すると、満室になっても利益が出ません。

価格設定これを解消するため、

稼働率が低い、あるいは、在庫が多いときには安く、

稼働率が高い、あるいは、在庫が少ないときには値段を上げるという

価格設定が考えられます。

 

需給のバランスを見ながら、価格変更するのは煩雑ですが、

ITを活用することで、流動的な価格を決めることが可能になってきています。

ダイナミックプライシングとも言います)

ダイナミックプライシング

 

サブスクリプション

 

人間は、財布からお金を出すことには抵抗を感じますが、

引き落としのように、定期支払いだと、抵抗感が薄れます。

(通っていないスポーツジムに、会員費を払い続けてしまう状態です)

 

この性質を活かし、一定期間の利用権を

定額にて販売する形態をサブスクリプションと呼びます。

 

従量課金であれば、使用量を抑制するインセンティブが働きますが、

固定課金になると、使用量を抑えるインセンティブがなくなり、使用量が増大します。

 

この増大した使用量をベースとして、支払意志額を計算すると、

固定課金が安く見える効果もあります。

 

ただし、使用量が増大する危険性があるため、

音楽配信、動画配信のような、使用量が増えても原価が増えないデジタルに

親和性が高い課金体系だといえます。

 

また、固定課金と、少し安めの従量課金を、組み合わせる形態もあります。

 

リゾートトラストの運営する会員制ホテル「エクシブ」は

会員権、年会費、宿泊費、という3つの料金体系を取っています。

 

会員権、年会費を払った「元を取る」ために、

より、多く宿泊をしたくなるようになっていますが、

その結果、併設レストランの売上も、上がるようになっています。

 

お客様が、固定課金を回収するために、

従量課金をより多く使用することで、需要の創出が期待できます。

 

 

リセールマーケット

 

美術品は、個人の嗜好で評価される、感覚的な商品であり、

数字化できる要素がなく、価格設定が非常に難しい商品です。

しかし、一部の美術品は驚くような高額で取引されています。

 

そのひとつの理由は、美術品は、

オークションで高額で売却することが可能だからです。

 

もし、高額で売却できる商品であれば、

高額で購入したとしても、購入金額は損失になりません。

 

つまり、商品が高額で再取引される市場があれば、

価格を引き上げることが可能になります

 

ワインのビンテージ、クラッシックカーのように、

再生産できない商品であれば、前述の希少性も相まって、

販売当時の価格を大きく超えて、取引されることもあります。

 

一般的な乗用車の場合は、新車購入以上の価格にはなりませんが、

それでも、一定の金額での下取りが見込める場合は、

新たな購入を促進することに繋がります。

 

購入を促進するために、リセールマーケットの構築を考えてみましょう。

 

 

情緒的便益、好意

 

お客様も、人間です。理詰め、理性だけで動いているわけではありません。

好き、嫌いといった感情も大きく、行動に影響します。

 

好きな商品を持っていると、気持ちが昂ったり、幸福感を感じることがあります。

(情緒的便益と呼びます。)

 

お客様に好かれる、愛されるということは、

高く買っていただくためには、大切な要素です。

 

お客様に好意を持っていただく、とは、お客様との信頼を構築することです。

 

お客様への感謝と敬意を持ち、

共通価値を、自社の理念として掲げ、一貫して守りましょう

そうすれば、おのずと、お客様との相互信頼が醸成されるはずです。

 

 

4.利益の「総額」を最大にする

 

お客様の買ってくださる「最も高い金額」を見抜くことは大切ですが、

必ずしも、最も高い金額を提示することだけが正しいわけではありません。

 

それは、会社の目標は、利益の「総額」を増やすことだからです。

 

もし、最も高い金額を提示できたとしても、

あえて、それを下回る金額を提示することで、販売個数が増え、利益総額が増えるのであれば、

最も高い金額を提示しないことが正解になります。

 

 

販売個数を増やす

 

たとえば、原価が50円の商品があったとします。

 

この商品を100円で売った時には、100個売れますが、

90円で売ると、200個売れる場合を考えましょう。

 

前者の利益は5000円ですが、後者の利益は8000円です。

安く売ったほうが、利益が大きくなるときも、あります。

 

お客様の支払意志額、競合他社の動きを知り、

「(価格ー原価)×販売数」が最大になるポイントを

見極めるようにしましょう

 

判断の参考になるのが、価格の弾力性です。

 

必要性が高いもので、さらに、代替品がない商品であれば、

値上げをしても、購買数は減りません。

 

自社の商品を必要性が高いものにする、

そして、代替品がない独自性の高い商品にできれば、

価格を上げても、販売数が減らないようになります。

 

自社の商品のポジションを認識し、

「利益×販売数」が最大になるように努めましょう。

 

 

営業戦略的な低価格

 

新規顧客の開拓において、

最初に人脈を拓くために(ドアオープナー/フットインザドア)として、

戦略的に破格な安値を提示することがあります。

 

新しく取引が始まった時には、赤字かもしれませんが、

その後のお取引で、収益の見込める商品を販売することができれば、

利益を最大化することに繋がります。

 

短期で収益を出すのではなく、中長期で収益の辻褄をあえば、

意味のある安値になります。

 

※ お試し版を無料で販売し、

  アップグレード版を有料で販売するフリーミアムも同じ考え方です。

 

また、来店型店舗では、目玉商品として、

破格な安値商品を、集客目的で、用意することもあります。

 

これも、来店されたお客様が、他の商品も買うであろうと考え、

他の商品の利益を見込んで、利益を最大化する考え方です。

 

商品単体ではなく、複数商品を組み合わせることで、

収益の辻褄を合わせることも可能です。

 

Successful business man jumping up on gold coin money concept

 

「死んだ」赤字商品も、戦略的に使えば、「活かす」ことができます。

赤字に陥った既存取引も、そこから新商品の提案(アップセル/クロスセル)につなぎ、

黒字を生み出せば、意味のある赤字になります。

 

「単眼ではなく複眼」「短期ではなく長期」「局所ではなく大局」を見て、

熟考し、利益総額を最大化しましょう。

 

 

 

〇「マーケティング志向のための7つの行動則」

 ・社会の要望を捉えた事業の目的を定める

 理念を貫く

 ・お客様/見込み客の立場で考え、適切にコミュニケーションする

 ・お客様にとってのベストになる

 ・熟考して値決めする

 ・極小の経費で売り上げを極大にする

 ・常に明るく前向きに、夢と希望をもって、挑戦する

 

〇 「マーケティング志向のための7つの行動則」の目的

マーケティングの基準軸を明確にすることで、創意工夫による、「需要の創造」「新商品の創造」「新技術の創造」「市場の創造」を促進する。

 

〇 「マーケティング志向のための7つの行動則」の意義

マーケティング志向を広めることで、企業の成果物を、適切な消費者にご採用いただくことを促進し、社会の進歩発展に貢献する

Topics: マーケティング, 7つの行動則