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BtoBに役立つ経営書『大型商談を成約に導くSPIN営業術』のまとめ

岡村匡倫
Posted by 岡村匡倫 on 4/14/20 4:56 PM

 

BtoBにおける大きな購買、いわゆる大型商談では、お客様は、専門知識、柔軟な対応力、そして、なによりも信用と信頼を求めます。その要望に応えるために、法人営業と呼ばれる営業担当が商談において果たす役割は、極めて大きいと言えるでしょう。

営業活動を効率化するために参考となる書籍として、大型商談を成約に導く「SPIN」営業術(ニール・ラッカム著)を取り上げたいと思います。この「SPIN」営業術は、下記の3点の課題に対して、解決になります。

[目次]

1.なぜ、SPIN営業術が有効か

2.理論の骨子:SPIN営業術とは

3.あらすじ

4.追記

 

1.なぜ、SPIN営業術が有効か

(課題1)大型商談では、見込み客は慎重になりがちである

大型商談は、見込み客にとっても経験が少なく、決断を下すことに及び腰になりがちです。さらに、商品がオーダーメードに近い、複雑な商品であれば、仕様や条件が複雑で、なおさら判断が難しくなるでしょう。

買い手と、売り手の、情報の不均衡性のなかで、見込み客が重要視するのは、「信用・信頼」です。

しかし、営業担当は、商談を進めるため、ひいては、自分の成績を上げるために、自社商品を売らなくてはなりません。この「売ろう」という姿勢は、お客様の信用・信頼を遠ざけてしまいます。法人営業では、この矛盾をどう解決するのか、ということが問題になります。

「SPIN営業術」では、「商品を買ってもらうこと」よりも先に、「商談成約が、見込み客にとって、どれだけの利益をもたらすか」を十分にご理解頂くことこそが、商談を前に進めるために大切である、と説いています。商談成立による利益が大きくなれば。自然と支払意志額が大きくなり、大型商談に伴う大きな支出も容認できるはず、という考え方です。そして、この書籍は、どのような筋道で、どのような話し方をすれば、お客様は、商談成立による利益を認めてくれるのか、ということを教えてくれます。

買い手と売り手を結びつける、プロモーション的観点とはまた異なる、独特なアプローチだと思います。BtoB、法人営業では重要な信用獲得、信頼構築に、大変参考になります。

 

(課題2)営業活動は千差万別で、画一化が難しい

営業効率を高めるためには、さまざまな状況で適用でき、さらに、営業全員で共有できる、汎用性の高いノウハウが求められます。しかし、お客様のパーソナリティ、商品の特性など、環境はケース・バイ・ケースで、どの場合にでも効果的なノウハウ、手法というのは、なかなか見つけることができません。

この書籍では、「商談を進める」ということを「支払意志額を引き上げる」というシンプルなモデルで捉えているため、分かりやすい内容となっています。また、応酬話法のように反論を引き出す、心理学を用いて相手を誘導する、といった複雑な方法ではなく、見込み客の抱えている問題に注目するという、シンプルでストレートな筋道なので、現場に展開でも難易度が低く、またトラブルが少ない内容だと思われます。

 

(課題3)オンライン・コミュニケーションの弱点は信頼獲得である

インターネットの発展により、情報の発信と取得は、オンラインに移行し続けています。距離を無視して、さらに、安価なコストでコミュニケーションを取ることのできる技術を使わない手段はありません。しかし、一方で、オンラインのコミュニケーションだけでは、大型商談を成約にまで導くほど、お客様の信用信頼を獲得することが困難であるのも事実です。

これからの時代は、BtoB、法人営業においても、オンラインを活用することで「見つけてもらう」「気づいてもらう」ことを効率化すると同時に、一方で、営業担当は、強みを発揮できる「信用獲得」「信頼構築」を優先して注力することが、営業活動の効率化には重要だと考えています。この書籍が刊行されたのは1987年ですが、現代でも使える、あえて言えば、現代でこそ、より通用する内容だと言えます。

 

2.SPIN営業術とは

値決めの上限を決める「支払意志額」を引き上げるには、見込み客が認識されている問題を解決するだけでは、不十分です。

見込み客への質問を通して、見込み客の気づいていない「問題」を掘り起こしましょう。

そして、その「問題」が生み出している「悪影響」を明らかにしましょう。「問題」が生み出す「悪影響」が大きければ大きいほど、深刻であれば深刻であるほど、見込み客は、おのずと、商談を進めたい、進めなければならない、と考えるからです。

 

SPINとは、下記4項目の頭文字です

・ Situation:状況質問

 見込み客の現状を分析するため、情報収集する

 

・ Problem:問題質問

 見込み客ご自身の感じている問題を教えて頂く

 あるいは、見込み客の気づいていない問題に気付かせる

 

・ Implication:示唆質問

 問題が引き起こす悪影響を示唆する

 

・ Need-Payoff:解決質問

 見込み客の気づいていない、商談成約の利点に気づかせる

 

3. 『大型商談を成約に導くSPIN営業術』の要約

行動心理学者である著者のニール・ラッカムは、経営コンサルタントとして、セールス活動をいかに改善するか、ということを研究していました。ある日、小さな商材を扱っていた時には優秀な成績を収めていた営業担当が、部署が変わって大きな商材を扱うようになると、必ずしも、優秀な成績を収めることができないことに気づきます。そして、大きな商材を扱う(大型商談)ために、なにが必要であるか、ということに注目するようになります。

大型商談は、小型商談と、何が違うでしょうか?

ニール・ラッカムは、「大型商談では、複数の決裁者が決定に参加するため、実担当者の感情の影響が小さく、合理的説明が優先される、という特徴がある。小型商談では、営業担当個人が感情的に好まれる、ということが重要だが、大型商談では、営業担当個人が感情的に好まれることは、あまり重要ではない。」と考えています。

そして、大型商談にかかわる営業担当が求められる技術を、「商談の費用対効果(利益)を説明し、見込み客に納得させること」だと結論付けています。

この、「商談の費用対効果(利益)を説明し、見込み客を納得させられる」ことを効果的に進めるためには、どうしたら良いかを分析するために、実際の営業現場で調査を行ったところ、2点のことが分かりました。

 

1点目は、優秀な営業担当は「よく質問をする」ということです。

調査によると、商談の成功率は、質問の数と、正の相関関係がありました。しかし一方で、提供する情報量は、商談の成約率とは関係性が無かったようです。営業担当は、見込み客に商品の利点をアピールするために、積極的に情報を提供しようとしますが、あまり効果的ではない、と説いています。

ニール・ラッカムはその原因として、以下のように説いています。

「人は、黙って話を聞きつづけることが基本的に苦痛と感じます。営業担当が質問をすれば、見込み客にしゃべらせることができるので、この「聞き続ける苦痛」を避けることができます。また、商談を進めるためには、見込み客が何を求めているのかを知ることが大切であり、そのためには質問をすることが効果的です。そして、見込み客は、相手のいうことは疑って聞き、信用しない傾向があるが、一方で自分で気づいたことは真実だと考える傾向があります。」

そして、「営業担当は、商談で自分の言葉をお客様に伝えるのではなく、質問を巧妙に組み立てることで、見込み客の意識を誘導するよう、心がけなければならない」と説いています。

説明

質問

2点目は、「問題の解決は、問題が顕在状態になって、初めて価値を認められる」ということです。

世の中を見回すと、だれもが多くの問題を抱えて生活しています。しかし、今すぐに解決しようとする問題と、解決しないでそのまま放置されてしまう問題があるはずです。ここで、ニール・ラッカムは、すぐに解決したいと考える状態を「顕在」、解決しないまま放置される状態を「潜在」と呼んでいます。

商談成約が、問題を解決できるとしても、解決できる問題が、優先順位の低い「潜在」の状態であれば、見込み客は大きなメリットを感じてくれません。しかし、商談が解決できる問題を、「潜在」から「顕在」に引き上げることができれば、見込み客は、商談を進めることに積極的になるはずです。

調査で分かったのは、商談成約が高い営業担当は、商談成約によって解決できる問題を、優先順位が低い「潜在」から、優先順位の高い「顕在」へと引き上げるアプローチが圧倒的に多かったとのことです。

つまり、商談を進めるにあたり、これから進めようとする商談が解決する問題を、解決の優先順位が低い「潜在」の状態から、解決の優先度が高い「顕在」の状態に、引き上げることが大切、ということです。

潜在顕在

調査結果から得られた上記2点のポイントを踏まえて、考えられたのが、「SPIN」営業術です。まず、見込み客との会話は、できるだけ「質問」を中心に組み立てましょう。見込み客の情報が十分に集まったら、商談成約が解決できる問題を列挙し、その問題が及ぼす悪影響に言及することで、見込み客の問題に対する認識を、「潜在」から「顕在」に引き上げましょう。見込み客が気づいていないことにも、できるだけ触れるよう心かけましょう。そうすれば、商談成約によりもたらされる利益が積み上げられ、商談が前向きに進むはずです。

 

1.見込み客の状況を把握するために、質問を行う(Situation:状況質問)

見込み客と適切なコミュニケーションを取るためには、見込み客の状況を把握しておく必要があります。しかし、一方的に情報を取得しつづけることは、見込み客に不信感を与えるので、状況質問を過剰に続けないよう、注意しましょう。

(解説者追記:例)

どんな家に住んでいますか? 物置はありますか?

どんな家族構成ですか?

どんな趣味ですか?

 

2.見込み客が抱えている問題を聞く(Problem:問題質問)

見込み客自身が現状、問題だと考えていることをお聞きすることで、見込み客が何を求めているのかを探り出します。もし事前に、お客様の抱えていて、さらに、自社が解決できそうな問題を類推できるようであれば、自社に有利な話題に誘導し、商談を進めやすい環境を作ることもできます。

また、見込み客自身が気づいていない問題を、質問を通して気づいていただくことも大切です。自社の商品が解決できる問題が増えれば増えるほど、成約の成果を増やすことができるからです。

(解説者追記:例)

生活部屋は片付いていますか? 

掃除は行き届いていますか?

長期間使わないものはどうされていますか?

 

3.その問題が引き起こす、さらなる悪影響に誘導する(Implication:示唆質問)

問題を放置することが、見込み客にとって悪影響が大きい、と気づけば、見込み客は今すぐにでも対応しなくてはならない、という気持ちになり、対応の優先順位が上がるはずです。

一つの問題からは、複数の悪影響が発生します。見込み客が、問題に気付くのは、悪影響からです。悪影響から、一つの問題に気付いていたとしても、その問題から出ている、異なる悪影響には、まだ気づいていないかもしれません。

前項で聞き出せた、見込み客の気づかない問題もあわせて、できるだけ多くの悪影響に気付かせる質問をしましょう。

(解説者追記:例)

生活部屋が散らかっていると、イライラしませんか?

掃除ができないと、埃が溜まりませんか? お子様は良く風邪をひかれませんか?

長期間使わないものをクローゼットの奥にしまい込んでいると、シミがつきませんか?

クローゼットの奥にしまい込んだものは、取り出すのが大変ではないですか?

 

4.解決によってもたらされる効果に誘導する(Need-Payoff:解決質問)

示唆質問では、商談が成約しないことによるデメリットを列挙して伝えます。見込み客にとっては、脅迫されているような気持になりかねません。この解決質問では、商談を成立させることで、メリットがあることを伝え、見込み客を前向きな気持ちにします。問題の解決による悪影響の解消と、成約に伴う良影響の合計が、商談の成約の効果といえます。この段階では、見込み客の気づいていない利益を含めて、お伝えするようにしましょう。

(解説者追記:例)

生活部屋の不要物を収納できれば、生活が快適になりますよね?

物置が無くても、レンタル物置を借りれば、生活部屋の不要物は減らせますね?

スノーボードはオフシーズンには仕舞い込んでも、何の問題もないですよね?

電話ひとつで荷物が取り寄せられたら、奥から取り出さなくて済むので、便利ですね?

 

 

質問を中心に商談を進める方法は、自説を押し付けないために、見込み客から反論を受けにくいというメリットがあります。また、商談をできるだけ前に進めるためには、自社が信頼に足るだけの能力を兼ね備えていることを伝えること、見込み客が感じている心配や懸案を丁寧に解消していくこと、見込み客との関係性が切れないよう具体的な進展を心がけることも、重要であると、ニール・ラッカムはアドバイスしています。

 

4.問題の顕在化についての追記

顕在と潜在の違い

自分の部屋が散らかっていたら、「今、快適に生活するために、部屋をきれいに片づけておきたい」と思うはずです。しかし、要らないものを放り込んだ物置は、「いつかは片づけないと、、、」と思いつつ、忙しさにかまけて、後回しにしてしまいます。前者の部屋をきれいにしたいという要望は「顕在」で、後者の物置の片付けは「潜在」です。「顕在」「潜在」を見るには、「解決を緊急性をもって、強く誘発するか」「優先度が高いか、低いか」が分かりやすいかと思います。

 

なぜ、お客様の問題に対する認識にとらわれないことが、重要なのか

 

ひとつの原因は、複数の問題を発生させます。ひとつの問題は複数の悪影響を発生させます。例を挙げてみましょう。ある乗用車で、ドアと車体の間に隙間がある(原因)としましょう。この結果、「気密性が悪い」「遮音性が低い」といった複数の問題が発生します。気密性が悪いと、「適温を維持することができない」「乗車してから、なかなか適温にならない」といった悪影響に加え、エアコンに負荷がかかるために「燃費が悪くなる」という悪影響も出ます。遮音性が低いと、「オーディオの品質が下がり、満足度が下がる」といった悪影響にもつながります。

原因と問題と悪影響

もし、車体とドアの隙間を防ぐことができる製品を売り出す時には、「気密性と遮音性が上がる」と問題解決を訴えるより、「エアコンの効きが良くなって、すぐに快適な温度になる。さらに燃費も上がる。オーディオの品質も良くなる」と影響を訴求したほうが、ボリュームも増し、さらに説得力があります。

原因の影響範囲

 

つまり、「問題」よりも「原因」、それも、本質的な原因を解消することができれば、より大きな利益を提供することができます。もし、商談成約(製品導入)が「問題」ではなく、「原因」を解消できるのであれば、「問題」に着目するよりも、「原因」に着目し、さらに「原因」が及ぼす「影響」に言及したほうが、見込み客の認識する効果が大きくなる、と言えます。

 

多くの見込み客が、原因に気付いていないことを、みなさまは不思議に感じられるかもしれません。しかし、それには、理由があります。それは、見込み客を商談を始めようとするきっかけは、見込み客ご自身が気づいた「悪影響」を解消することにあるからです。

問題解決

顕在化している問題とは、悪影響が見えている状態です。しかし、悪影響を解決することに意識が集中してしまうと、問題を深彫りすることに意識が行き届かず、原因に辿り着けません。

 

問題の解決と、原因の解決では、方法も結果も、まったく異なります。例を挙げてみましょう。わたしが、自分自身の服装に自信がなく、改善を求めていたとします。悪影響は、異性にモテない、職場でもセンスが悪い人だと軽蔑される、といったことが想定されます。では、どのような解決方法が良いのでしょうか。

自分の服がダサいという原因が、「かっこいい服がどういうものか分からない」なのか、「服を買いに行く時間がない」なのか、「服を買うお金がない」なのかで、解決法は大きく変わってきます。もし、「かっこいい服がどういうものなのか分からない」なのであれば、「かっこいい服がどういうものなのか、自分で分かるようにする」ことが、原因の解消に繋がります。自分なりの「かっこいい」を持てるよう、知識や経験を積むことこそが、「原因」の解消に繋がります。友人に「かっこいい服を買ってもらう」という方法で、「問題」の解消の取り組んだとしても、「かっこいい服がどういうものなのか分からない」という根本的な「原因」は無くなりません。その結果、新しい服が必要になるたびに友達に頼みごとをすることになりますし、服を買いに行く楽しみを感じることもないでしょう。問題の原因の「かっこいい服がどういうものなのか分からない」ということを解決することこそが、大きな改善をする正解だと言えます。問題を深彫りして、問題が発生している原因に着目することこそが、問題を本当に解決する方法だと言えます。

 

見込み客も気づいていない原因は、見込み客の気づいていない問題を引き起こし、見込み客が気づいている以上の悪影響を引き起こしています。だからこそ、質問を通して、問題を深彫りし、本質的な原因を発見し、その原因が及ぼしている悪影響のすべてを、見込み客に気づかせることが、大切なのです

原因解決3

お客様のおっしゃる現状の問題を真剣に聞きつつも、それにとどまることなく、質問を通して、お客様の本質的な問題は何なのか、自分は何をすれば本当に役に立てるのかと、ということを深く考え、真の解決方法をご提案をすることこそが、法人営業の役割だと思います。

 

 

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