弊社はカタログ、チラシといった商業印刷を主に取り扱う印刷会社です。しかし、平面から立体へ、紙製品から紙以外の素材へと、既存の枠を超えた「超印刷」を目指して、日々挑戦しています。
今回は、弊社が約1年前に製造を始めたフェースシールドの開発経緯を、参考事例として共有させて頂きます。
経緯
2020年4月のことなので、今から約1年ほど前、新型コロナウィルスが急激に拡大し、感染防止のためのマスクが、品薄になっていました。新型コロナウィルスとの戦いに、弊社もなにか貢献できないかと話し合ったところ、「フェースガードなら作れるのではないか」という声が出てきました。
弊社は、紙を打ち抜くためのトムソンを所有していますが、現場からの「工夫をすれば、紙以外の素材も打ち抜けるかも」とのひとことが発端でした。実験用にPET、PP、フィルムを通してみたところ、なんとか打ち抜けることが分かりました。しかし、樹脂製素材は静電気で貼きやすく、1枚ずつ通すべき工程で、2枚が重なったまま送り出されてしまうと機械の中で詰まっていまいます。そういった課題はありましたが、現場が慎重にオペレーションを行えば、致命的な機械故障は防止できそうだ、とのことで、挑戦することになりました。
製造工程に目途がついたので、次はデザインです。もちろん、弊社は、フェースガードのデザインを手がけた経験はありません。しかし、社内の立体什器(POP)を作るチームメンバーが手を挙げ、6つのデザイン案を出してくれました。
ジョイントスナップがあり、シールドを開け閉めできます
A案から、ジョイントスナップを取り除いたバージョンです
前頭部にゴムスポンジで固定する形状です
シールドをマジック粘着テープで固定する形状です
D案に、クッションテープを追加したバージョンです
ヘッドバンドに複数の切り欠きを入れることで、ヘッドバンドの長さを調整する形状です
デザイナー曰く、いくつか苦労した点があったようです。
まず、フェースガードを装着すると、熱気と湿気がこもることです。日本の夏は高温多湿です。フェースシールドをつけることは、かなりの不快感を催すことが予測されました。また、冷房がかかった部屋だと、冷やされたフェースガードに湿気を含む息が当たり、曇ることも心配されました。
次に、装着感です。フェースガードを固定するには、頭部を用いますが、頭のサイズは人それぞれ異なります。フェースガードが大きすぎると落ちてしまい、タイトすぎると圧迫感がある、というジレンマに苦労したそうです。
そして、原反の価格高騰です。当時、対面での飛沫感染を防ぐために、日本中で、間仕切りのために天井から透明素材を吊るされることになりました。このことで、原反が市場から払底し、価格が高騰、それ以前に手に入れることさえ困難という状況でした。そのため、できるだけ、素材を無駄にしない展開図を目指したそうです。
最後に、素材のアルコール耐性です。フェースガードを何日か使いまわそうとすると、アルコールで消毒する必要が出てきます。アルコールを塗布しても変質しないかどうか、PP、PET、フィルムを使って検証しました。
試作品を使った装着感、割付を想定したうえでの製造コストを踏まえたうえで、デザインはB案、素材はPETで決定しました。B案は、上部に隙間があり、空気が抜けるようになっています。また、頭を固定するリングに弾力性をもたせるため、端同士を輪ゴムで結い合わせる仕様になっています。
フェースガードは立体物なので、組み立てると、保管スペースを大きく取ります。収納を考えると、組立前の状態で保管し、使用時に組み立てることが望ましいと思われたので、取扱説明書を作りました。
結果
フェースガードに商機を見た多くの企業が一気に参入したため、残念ながら、売行はそこまで伸びませんでした。しかし、柔軟な思考、挑戦する勇気、現場の創意工夫があれば、紙以外の製品も手掛けることができる、という実感を得ることができました。
スマートフォンを代表とするデジタルによる情報伝達の登場以来、たしかに、カタログやチラシと言った商業印刷の市場は縮小を続けています。しかし、弊社には、商業印刷、美術印刷を通じて培ってきた技術力、開発力、生産力があります。それらを創意工夫で活かすことで、既存の枠を超える「超印刷」の世界を切り拓き、これからもお客様、社会に貢献してまいります。
紙製品だけど、こんなものは作れないか? あるいは、紙以外の素材だけどインクを載せることはできないか?といったお問い合わせも、大歓迎です。弊社は、、これまでは「できない」と言われたことにも取り組んでいきたいと思います。なにかお話がございましたら、こちらまで、お気軽にお問い合わせください。
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