このたび、明治神宮鎮座百年祭にて、「夢鈴」と呼ばれる行燈を作らせて頂きました。印刷会社が照明を作る、という珍しいお仕事でしたので、みなさまの参考になればと、情報を共有させて頂きます。
夢鈴とは
紙でフードを作って、中に照明を入れた「紙行燈」です。明治神宮の鎮座百年祭では、参拝者のお願い事を吊るした三千五百個 の夢鈴が、参道のわきに並べられ、明かりが灯されました。
構造でご説明すると、吊るされた照明器具に、フードを取り付け、その中に電球を入れます。すると、電球が引っかかって、風鈴のような形になります。さらに、お願い事を書いた短冊を吊り下げて、完成です。2020年の10月30日から11月1日までの3日間、夜間特別参拝の折に、奉祝の灯りとして、参道に並べて頂きました。
構造図
営業担当インタビュー
>本案件の統括をされた東京事業部の吉村さんにインタビューさせて頂きます。
>まず、今回はどのような形で、案件に関わられたのでしょうか
お客様との窓口と、素材やインクの選定、形状と加工の仕様決定に関わりました。
>どういった経緯で、吉村さんがご担当されることになったのですか?
奈良県では、お盆の時期に、奈良公園全体を、数多くの蠟燭で照らす「燈花会」というイベントがあります。そのイベントを、明治神宮の方がご覧になり、鎮座百年祭でも、明かりを灯したいと思われたことが、当案件のスタートになっています。わたしは、燈花会の運営委員の方とご縁があり、当案件に関わることになりました。
>どういった形で、進んでいったのでしょうか。
私が案件に関わった時には、既に、どのようなものを作りたいのか、というラフ案は、すでに出来上がっていました。ただ、それをどのような工程で製造するのか、という「ものづくり」が見えていなかったので、製造業の立場で、ご協力させて頂きました。
当初は、和風のテイストを出すために、和紙を合成紙でサンドイッチにした紙を予定していました。しかし、この紙で試作してみたところ、折り目で、和紙と合成紙が剥離してしまう、という問題がでてきました。そこで、電飾用合成紙に、和紙の模様を刷り込むという作り方に変更してみました。
電飾用合成紙はコシがあり、成型時のために端部を貼り合わせても、時間がたつと、元の平面に戻ろうとして、貼り合わせが外れてしまったので、折り目を強く入れることと、両面テープの選定に注意しました。
照明を入れたときに、どのような見え方になるのか、というのは、実際に屋外で見てみないと分からないので、試作品に照明を入れ、検証しました。実際の屋外の明るさで検証したかったので、日没に集まって、明かりを灯したのが、今は、良い思い出です笑
>照明を入れてみて、いかがでしたか?
明かりの抜けも良く、絵柄も白く飛ばずに程よく見え、期待どおりでした。ただ、再度、透過光で刷り込んだ和紙の模様を見ると、汚れのようにしか見えないということが分かり、最終的には、絵柄のみを刷ることになりました。
>今回、コロナの影響はありましたか?
今回、再生PETを用いた特注品を用いたため、原反は、かなり早めに発注しました。しかし、コロナウィルスの感染拡大でイベントが縮小する、それどころか、中止になる、という話も出てきて、やきもきしました。幸い秋口の感染が納まっていた時期だったので、無事開催されることになりました。
>実際に、会場で夢鈴を見られて、いかがでしたか?
自画自賛になりますが、本当に素晴らしい風景でした。10月30日から11月1日の三日間でしたが、10月31日はブルームーンと言われる特別な満月で、それが、行燈の並ぶ参道の上に見える、幻想的な「明かりのコラボレーション」を楽しむことができました。
また、多くの人が行燈の写真を撮影されている様子と、お願い事が書かれた行燈を、実際に現地で見ると、感慨ひとしおでした。あと、連れていった家族に、ほめてもらえました笑。設営についても、照明ソケットへの取り付け段階でトラブルはなく、順調だったそうです。
>今回の経験を踏まえ、今後、チャレンジしたいことは、ありますか?
今回、コロナウィルス感染予防のため、中止になってしまったのですが、同じ製法で、LED照明を使った手提げ提灯の話も進んでいました。地元商店街と連携して、参拝された方に提灯をもって、町全体で御鎮座百年を祝う、という構想でした。今は難しいかもしれませんが、コロナが納まり、機会がありましたら、もう一度、チャレンジしたいですね。
>ぜひ、わたしも見てみたいです! ありがとうございました。
生産担当インタビュー
>今回、生産側を取りまとめて頂いた、東京業務部の岡村匡記さんにインタビューさせて頂きます。
>まず、どういったお仕事をされているのか、自己紹介をお願いできますでしょうか。
東京における外注生産の取りまとめを行っています。営業からの依頼に沿って、外注に発注を行う、ものづくりを統括する立場にいます。そのほか、営業からの「こんなものは作れますか?」といった問い合わせに答えたり、受注段階では確定していなかった仕様詳細を、製造の制約を踏まえながら、決めていくのも、わたしの役割になります。
>今回は、どういった経緯で、夢鈴を作ることになったのですか?
実は、今回の明治神宮様からお話を頂く前から、紙行燈の話があったのです。岡村印刷では、ミストグラフと言う商標で、アニメの複製原画を製造していますが、複製原画以外にも、何かご提案できるものはないか?、と考え、以前から、様々な新商品を開発、提案していました。社内では千本ノックと呼んでいました笑。その中で、出てきたのが、紙で作った行燈です。アニメの意匠でシェードを作り、中に照明を入れる、というアイデアですが、残念ながら、商品化には至りませんでした。そののち、昨年、明治神宮様が御鎮座百年祭にあたり、行燈を作りたい、とのお話が出たときに、没になったアイデアが活きた、という経緯です。
>試行錯誤が、時を経て、形になったのは、本当に嬉しいですね。
>今回のお仕事で、工夫されたことはありますか?
岡村印刷では、バックライトで絵柄を透過して見せる「コルトン」「電飾板」と呼ばれる製品を製造しています。百貨店の化粧品売場などで使われていますが、通常の紙ではなく、「ピーチコート」と呼ばれる合成紙を使っています。その実績から、今回も、ピーチコートをご提案しました。今回は、屋外での展示となるため、雨に濡れる可能性もありましたが、ピーチコートは耐水性が高いことも、プラス要因となりました。
ただ、ひとつ、問題がありました。明治神宮様から、環境に配慮した再生素材を使いたい、とのご要望を頂いていたのですが、ピーチコートには再生素材を作ったラインナップはありません。そのため、生産元にご相談して、特注で、再生PETを使ったピーチコートを作って頂くことになりました。余談ですが、今回の生産がきっかけとなり、正式に商品として発売されることになったそうです。
>製造面で、なにか工夫されたことはありますか?
まず、ピーチコートは、浸透性の低く、通常のオフセットインクではインキが定着しないため、UV印刷を用いています。また、ピーチコートは半透明のため、絵柄の無い箇所の光が抜けすぎることを防ぐため、一般には下地としてホワイトを刷りますが、今回、実際に使う予定の照明を入れて検証したところ、そこまで強い照明ではなく、素材の地色で十分と分かったので、コストダウンの観点からも、下地のホワイトを無しにしました。
印刷の次に、行燈型に成形するために、トムソンを使って、型に打ち抜く、折罫を入れる、という工程がありますが、ここでも「折罫を逆に入れる」という工夫をしています。業界外の人には分かりにくいので、もう少し解説させて頂くと、折罫は、通常、折る方向と逆向きに入れます。
検証をしてみると、ピーチコートは一般的な紙に比べると、圧倒的に硬いため、トムソンで折罫を入れても、W型ではなく、V型になることがわかりました。
W型と、V型では、折方向が逆になります。つまり、折罫を逆方向から入れる必要があるということです。
折罫が弱いと、きっちり曲がってくれずに丸まる、あるいは、貼り合わせが外れてしまうという危険がありましたので、今回、強めにV型で折罫を入れたことで、次工程の貼り合わせ作業を、順調に進めることができました。
>今回、感じたことは、ありますか?
普通のカタログやポスター、図録といった一般的な仕事とは異なる、オーダーメードの仕事だったので、実際に大量生産した時、どんなトラブルが起こるか、全く読めませんでした。ですから、無事に製品が出来上がったことが、まず嬉しいです。今回、早めに決裁して頂いたことで、納期に余裕をもつことができ、試作で十分な検証ができたことも、成功の要因だと思います。
>生産は、ミスが許されない仕事なので、プレッシャーも大きいですよね。
>だからこそ、信用、信頼が大切なお仕事だと、感じています。
>本当にありがとうございました。
最後に
明治神宮様の鎮座百年祭という重要事業に関わらせて頂いたことを、本当に嬉しく感じています。まだまだ、コロナウィルスの感染予防のため、人が集まることは難しくはありますが、コロナが収束したあかつきには、新たな夢鈴で、街を明るく照らしていきたいと思います。
紙行燈「夢鈴」について、ご興味のある方は、こちらからお問い合わせください。
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