「ドーーーン!!」と長い巻物が飾られている迫力のある風景…。
こちら、「BBプラザ美術館」様で、7月3日(土)より開催されております、『ジャック・ケルアック『オン・ザ・ロード』とビート・ジェネレーション 書物からみるカウンターカルチャーの系譜』展の会場風景です。
この中央に展示されている「オン・ザ・ロード」のレプリカ…実はこれ、弊社にて作成させていただいたものなんです!
今回は、この「オン・ザ・ロード」のレプリカ製作秘話を記事にしていきたいと思います。
「オン・ザ・ロード」について
■誰が作ったのか。
アメリカの小説家、ジャック・ケルアックです。「オン・ザ・ロード(原題:On the Road)は、ケルアックの自らの放浪体験を基に書かれた自伝的小説です。
■どんな意味がある作品なのか。
1940年代から50年代のアメリカを舞台に、ケルアックをモデルにした主人公サル・パラダイスが、ディーン・モリアーティ(ニール・キャサディがモデル)等とともに、アメリカ大陸を自由に放浪する姿が、刺激的に描かれています。その新しい価値観は世界中に影響を与えました。特にヒッピーからは熱狂的に支持され、カウンターカルチャーにも大きな影響を与えました。
■なぜ36mもあるのか。
今回レプリカを作成させていただいた「最初の原稿」は、1951年4月、ケルアックがタイプライターを用いて、たった「3週間」で一気に書かれたとされています。ケルアックは、タイプライターの紙交換で、言葉の流れが妨げられ、集中の邪魔になることを嫌い、事前にテープで長く繋ぎあわせた紙を用意し、一気に打ちこんでいったそうです。36mもの長さになったオリジナル原稿は、巻物のように丸めて、保存されています。
※詳しい解説は、『ウィキペディア(Wikipedia)』にてご確認ください⇒リンク
レプリカを作るにあたって
今回のレプリカの制作、弊社の「ミストグラフチーム」が担当させていただきました。
ミストグラフとは、岡村印刷工業株式会社が「ジークレー」をベースに改良を加え、1998年に販売を開始したデジタル版画のブランドです。
細かいインクが霧のように版画用紙に吹き付けられる様子から名付けられました。
国宝や重要文化財のレプリカの製作にも使われた実績があり、その確かな技術を活かして、今回の「オン・ザ・ロード」レプリカ製作に取り組んでおります。
※ ミストグラフについての記事はこちら。
実はこのレプリカ…「○○」に印刷しているのです!
レプリカを制作するにあたり、まず、「用紙を何にするか?」ということを決める必要がありますが、今回はコロナ禍の影響で、残念ながら海外にあるオリジナルを確認することができません。
ですので、撮影された資料を調べてみると、文字が透けて見えることに気がついたのです。
そこからオリジナルで使われている用紙は、恐らく「タイプライター用紙」だと予測し、透け感のある「薄手」の「タイプライター用紙」で制作することになりました。
しかし、そういうタイプライター用紙で、インクジェット適性のある用紙は、残念ながら見つかりませんでした。早くも壁にぶつかったのです。
「巻物の質感を出せるような透け感のある薄手の紙って何だろう…?」
そんな中でたどり着いたものが、「和紙」でした。海外の文化財を、あえて、日本独自の「和紙」で複製したことで、実物に近い風合いを出せたのではないかと考えております。
【作業面での工夫】
「オン・ザ・ロード」は36mに渡る長尺の作品です。オリジナルは、紙をテープでつなぎ合わせています。
このレプリカでも、その繋ぎ合わせを再現するために、「カッティング」と「貼り合わせ」に工夫を凝らしました。
スキャニングデータの出力紙を、オリジナルにあわせて、わざわざカットし、さらに貼り合わせを行っています。
【技術面での工夫】
受領したスキャニングのデータは、2m単位で分割されていました。
データをレプリカ用の出力するには、まず、データを繋ぎ合わせる必要がありますが、その際、二つのデータの繋ぎ目が分からないように、丁寧になじませるよう、工夫しました。
また、36mという超長尺の作品のため、全てのデータを繋げると、Photoshopで扱えるピクセル数(30万ピクセル)を超えてしまいます。そのため、出力サイズが可能なサイズで、データを再分割し、出力しました。
【担当者へのインタビュー】
今回の製作担当に、「ここだけの裏話」をインタビューしてまいりました。
Q1,苦労したポイントは何でしたか?
A1,「繋ぎ目の再現」と「本文と裏打ちの判別」です。
・つなぎ目の再現
オリジナルでは、用紙と用紙の繋ぎ目にあるテープ部分にも、英語が印字されています。繋ぎ合わせの作業にあたっては、繋ぎ合わせがズレて、文字がダブらないよう、至近距離で英字をジッ…と目を開きながら、慎重に「でんぷんのり」で貼り合わせていきました。非常に細かい作業で、目が乾燥するほど、過酷だったそうです。
・本文と裏打ちの判別
タイプライター用紙は強度がありません。オリジナルは、長期保管できるように、補強目的で、裏打ちがされています。しかし、裏打ちに使われている紙色は薄く、本文のタイプライター用紙と色味に差があまりないため、本文と裏打ち部分の判別に、かなりの手間がかかりました。
また、オリジナルの一部は、経年劣化で、裏打ちされた用紙ごと、欠けています。レプリカの制作にあたっては、「オリジナルでは欠けているけど、おそらく本来は裏打ち用紙があった」と思われる個所は、裏打ちをカットしないで、そのままに残すことにしました。
Q2,より本物に近いレプリカにするための工夫は何でしたか?
A2,貼り合わせる際に、用紙の前後関係(上に貼られている方か下に貼られている方か)を確かめながら貼ったことです。
オリジナルをできるだけ、忠実に再現するため、二つの用紙を貼り合わせる際、どちらが表に来るかも、確認しながら、貼り合わせていきました。スキャニングされたデータのみが参考資料だったため、大変、苦労したそうです。
インタビューは以上になります。
より良いモノづくりのための現場のこだわり、工夫を感じました。
納品形態のこだわり
・オリジナルでは巻芯にアクリル材が使われていたので、今回のレプリカでも、アクリル材で巻芯を作りました。
また、長期保管を想定して、長期間密着させても用紙を劣化させないAF(アシッドフリー)のダンボールを用いて、ぴったりサイズの収納箱を作成しました。
弊社は納品後のことまで考慮して、お仕事させていただいております。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
こだわりがたくさん詰まったレプリカを「見てみたい!」という方がいらっしゃいましたら、是非、「BBプラザ美術館」様に一度足を運んでみてはいかがでしょうか?(2021/07/03(土) ~ 2021/08/08(日)まで)
※BBプラザ美術館様のホームページはこちら⇒リンク
Leave Comment