菱二私論

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ウィズコロナの不安を乗り越えるための書籍『森田療法:岩井寛著』

岡村匡倫
Posted by 岡村匡倫 on 7/3/20 8:51 PM

 

経営書を読む」シリーズです。

 

人間は生きていると、様々な不安を抱えます。

「あの件は、うまく行くだろうか」

「あの時、ああは言ったけれど、本当に良かったのだろうか」

「この先、どうなるんだろう」

 

不安が極端に強くなると、心が押しつぶされてしまい、

正常な判断が、できなくなります。

 

苦難に立ち向かい、

さらなる成長に向け、新たな挑戦に取り組むためには

前向きな気持ちが、求められます。

 

不安に負けない心を作るためには、

どうすればよいのでしょうか。

今回は、『森田療法:岩井寛著』を取り上げたいと思います。

 

森田療法は、1919年(大正8年)に森田正馬により創始された

神経質に対する精神療法です。

神経質だけでなく、神経衰弱、神経症、不安障害、心身症、

不安神経症、うつ病、パニック障害などの疾患に対しても、適用されます。

 

森田療法の特徴は、神経症の原因となる不安、葛藤という感情を、

神経症患者特有として捉えるのではなく、

一般的な人間が抱える普遍的な感情の延長線として、捉える点にあります。

 

このことから、森田療法は、正常に社会生活を営む健常人にとっても、

効果が期待できるアプローチと考えられています。

 

新コロナウィルスの感染拡大に伴い、経済環境、社会情勢が大きく変化し、

先が読めない時代になっています。

 

不安、恐怖に惑わされずに、前向きになりたいとは思っても、

言うは易く、行うは難し、神経症とまでは言わないまでも、

自分の心の整理に悩まれている方も、多いのではないでしょうか。

 

森田療法を理解することで、

ぼんやりとした「不安」が、どういったメカニズムで発生するのか

どのような取組を行うことで、それらの感情を解消するのかを、

学ぶことができます。

 

・ 森田療法の用語

・ 『森田療法:岩井寛著』の概略

・ 森田療法の実践(私論、見解)

 

森田療法の用語

・ 生の欲望

   「より良く生きたい」という人間特有の要望

 

・ とらわれ

   心を捉えられ、それに強く拘束され、自由に考えることができなくなる状態

 

・ 葛藤

   「かくあるべし」という強迫概念と、現に「かくある」現実との間に悩むこと

 

・ 合理化

   要望を正当化するために、(無意識に)都合の良い理由付けをすること

 

・ はからい

   (無)意識に沿った形で、行動を行うこと

 

・ あるがまま

   事実をそのままの姿で認めること。

 

・ 目的本位

   心の底にある、本当はやりたいこと(目的)を基準にすること

 

・ 精神交互作用

   身体的異変を取り除こうとすればするほど、それに注意が行き、身体的異変が促進される現象

 

『森田療法:岩井寛著』の概略

「生の欲望」から葛藤が発生するメカニズム

 

人間は、より良く生きたいという欲望を持っています。

森田療法では、これを「生の欲望」と呼びます。

 

「生の欲望」は、

「夢を叶えたい」という自己実現欲求として、前向きに表れることもありますし、

「危険を避けたい」という逃避欲求として、後ろ向きに表れることもあります。

 

なぜなら、

有利なポジションを得ること、

危険を回避すること、

いずれも、生命を守るためには、大切な欲求だからです。

 

しかし、「~なければならない」という考えに、「とらわれ」ていると、

自己実現欲求と、逃避欲求が、矛盾する形で、同時に発生することがあります。

 

たとえば、明日、大勢の前で、スピーチの予定があるとしましょう。

 

大勢に見られる、せっかくのスピーチですから、

「上手にやり遂げたい」という自己実現欲求が起こりますが、同時に

「失敗するかもしれない、逃げたい」という逃避欲求が起こります。

 

通常は、「逃げたい」をいう気持ちを抑え、

なんとかスピーチに向かいます。

 

しかし、もし、

「上手にやり遂げなければならない」という考えに、強くとらわれていると、

「上手にできないかもしれない」という不安が、極端に強くなります。

 

その結果、「上手にやり遂げたい」という気持ちと、「逃げたい」という気持ちが、

激しい「葛藤」を起こし、ストレスに悩まされる、

あるいは、無意識に逃避行動をとるようになります。

 

葛藤

 

この、「無意識の逃避行動」を正当化するために誘発されるのが、

さまざまな身体的異変です。(これを「はからい」と呼びます)

 

さらに、発生した身体的異変を、何とか取り除こうと意識すると、

精神交互作用が発生し、状況は悪化していきます。

そして、身体的異変を合理化するために、

自らの能力、可能性、将来への希望を失い、自己否定に陥ります。

自己否定により、ふたたび、無意識の逃避が発生し、

はからいから、身体的異変が助長されます。

不安を乗り越える2

 

上記のような悪循環の起点となる葛藤を解消する方法として、

森田療法では、

「逃げたい、という欲求を持つことを、事実として受け止め、

逃避欲求があったとしても、そのままにしておき、

そのうえで、自由意思をもって、自己実現欲求を、意識的に選択する

「ありのまま」の状態を目指す」ことを説いています。

 

※ 「ありのまま」とは、

  ただ単に、自分の欲望に従って、思い通りにふるまう、ということではなく、

  逃避欲求を、否認しない姿勢を指しています。

 

 

森田療法の治療

 

森田療法では、治療を通して、

「生の欲望」をよりよく生かしうる内面を

被治療者の中に形成していきます。

 

ただし、治療者が説得をもって、被治療者を変えるのではなく、

治療者が、被治療者の内面に「治癒の核」を投影し、

それを、被治療者が、自らの思索と行動をもって育成し、

自覚まで深めていくことを目指しています。

(岩井先生は、これを「啐啄同機」という言葉で説明しています)

 

また、身体的異変を促進し、正常な生活を妨害する

「精神交互作用」を防ぐためには、

もっと気を付けるべきことに、意識を向けさせることで、

身体的症状から気をそらすアプローチをとります。

 

また、こころの葛藤を生み出す原因となる

「とらわれ」から逃れるすべとして、

他人の助言を素直に聞き入れ、

さらに、実際に行動に移してもらうことを、

治療として行っていきます。

 

自分の考えに合わない他人の助言に従うことは、

大いなる勇気が求められ、さらに、大きな苦しみを伴います。

しかし、行動に踏み切り、それが報われると、

「とらわれ」から、抜け出ることができるようになります。

 

 

「あるがまま」による人間性の確立

 

人間の思い通りにならないのが、現実です。

 

思い通りにならない自分を「ありのまま」に受け止めることは、

思い通りにならない現実そのものを、正しく受け止めるきっかけとなります。

 

自分と、現実を「あるがまま」に受け入れたうえで、

逃避意欲に屈せず、主体的に、自由意思をもって、

自己実現を目指すことこそが、人間性の確立であると、

岩井先生は、喝破しています。

 

自己確立に向けての7つについて、原文のまま転載します。

 

1.自分の生きていた時間、自分が置かれている空間(性格形成を含む)を含めて、

  自分の存在を正しく認識する

 

2.自分の苦悩が、「とらわれ」に陥っていないかを検証する

 

3.不安や葛藤の性質を顧みて、とらわれているということがわかったならば

  その「とらわれ」の内容を整理し、それをあるがままに認める。

 

4.自分の真の欲望が何なのかということをじっくりと考えてみる

 

5.自己の「人間としての」欲望、つまり、「生の要望」を実現するために、

  目的本位の行動をとる。

 

6.以上のような思考、行動を通じて、自己陶冶、自己確立をはかる。

 

7.人間としての自由を求め、それなりの個性を活かし、創造的な生き方を試みる

 

 

森田療法の実践(私論、見解)

不安との付き合い方

 

「不安」とは、

「~なければならない」という「とらわれ」から発生した

恐怖に対する逃避欲求です。

 

では、不安は、無いほうが良いのでしょうか。

そんなことはありません。

 

身に危険が迫った時に、生命を守るための、大切な「本能」です。

「向上心」があるからこそ、「不安」は生まれるのです。

「不安」を無くそうとすること自体が間違えているのです。

(稲盛和夫師は「感性的な悩みをしない」と、おっしゃっています)

 

将来について確実に分かることは、実は、何一つ、ありません。

今のような、前代未聞の状況では、なおさらです。

未来は「確実ではない」がゆえに、「不安」は、決して無くなりません。

にもかかわらず、「不安」を拭い去るために、「確実な未来」を求めていくと、

どこかで、かならず、葛藤が起こります。

 

そうではなく、「不確実な未来」を受け入れつつ、

自由意思で、前向きであることを選び取れば、

葛藤を起さずに、前向きでいることができます。

 

また、将来が確実ではないという事実は、

絶え間なく努力をしなければならないことを教えてくれます。

 

その努力が、将来を、より明るく照らしてくれれば、

自然に、不安も消えていくのではないでしょうか。

 

 

必要悪としての「とらわれ」と、昇華

 

会社を運営していると、

「~できない」ということが、許されないことも多々あります。

 

たとえば、

目標を売上を達成しなければ、会社は存続することができません。

お客様に喜んで頂かなければ、仕事は無くなってしまいます。

 

また、話は変わりますが、ある生命が存在するときに、

「必要な栄養分を取らなくてはならない」

「自分を捕食する危険な生物から、逃げなくてはならない」

というのは、生命を守るためには絶対に必要です。

 

これらの、「~なければならない」という考えは、

「生きなければならない」という「とらわれ」から発生していますが、

「生きなければならない」という「とらわれ」を放棄してしまうと、

生命は、滅びてしまいます。

 

会社という生命が、滅びないためには、「利益は残さねばならない」ですし、

仕事を続けるためには、「お客様に喜んで頂かなくてはならない」ことは事実です。

 

この

・「~なければならない」という事実

・「~できない」かもしれないという事実

が矛盾を起こさないようにするためには、

 

「~なければならない」という「とらわれ」を昇華し、

「~したい」という自己実現欲求に変換することが

大切ではないかと考えています。

 

たとえば、

「売上を達成しなければならない」は「売上を達成したい」

「お客様を喜ばせなくてはならない」は「お客様を喜ばせたい」

というように。

 

なぜなら、「~したい」という考えは、

「~できないけれども」ということが前提になるので、

「~できない」という事実を受け入れても、論理的破綻がありません。

 

「~しなければならない」という言葉を、

「~したい」に置き換えれば、

「生の欲望」が内包する矛盾を解消できます。

 

ただし、その「~したい」という思いも、

吹けば飛ぶような、軽い思いでは、

苦難を乗り越えることも、困難に打ち勝つことも、できません。

 

繰り返し、繰り返し、潜在意識に到達するほどに、真剣に願い続け、

揺るぎない「強烈な願望」に昇華して、初めて、

「~したい」という思いは、実現できるのではないかと思います。

 

 

ひとのなかに、「とらわれ」をみたとき

 

人間は、集団で、日々を営んでいます。

そして、それぞれのひとが、それぞれの思い、それぞれの考えをもっています。

 

集団として、一つの何かを選ぶときには、

かならずしも、全員の「思い」が、一つにまとまるとは、限りません。

 

そのとき、誰かが「~なければならない」という思いにとらわれていると、

そのひとは、自分の思いに、固執するはずです。

 

もし、異なる意見が出たとしても、その人は、聞き入れる耳を持たず、

みんなが満足できるような合意を形成することが、困難になります。

 

このとき、その人に、

「あなたは、自分の考えにとらわれており、正常な判断を下せていない」

と、伝えたとしても、

 

その人は、議論を有利に進めようとしているのではないかと疑い、

なかなか、素直に聞き入れてくれないのではないでしょうか。

 

このとき、大切なことは、

その人の「~なければならない」という「とらわれ」の背後にある、

本質的な「~なりたい」という自己実現欲求を捉え、明確化し、

そのうえで、妥協点を見出すことではないかと思います。

 

 

また、一方で、「そのひとが、とらわれている」と思っていても、

「そのひとが、とらわれている」のではなく、実は、

「自分自身が、とらわれていた」ということもあり得ます。

 

この時も「~なければならない」ではなく、

「~なりたい」と考えることは、ひとつの対策となります。

 

なぜなら、「~なりたい」という言葉は、

「未来」という時間軸を持っているために、

「今できなくても、未来にできる」という形で

自分の思いを曲げることなく、

相手の思いを受け入れることができるからです。

 

そして、

「今」、自分の思いどおりにならなかったとしても、

「未来に」、自分の思い通りになるという形で

思いが異なる人との妥協点を、見出すことにつながります。

 

 

この書籍から感じたこと

 

著者の岩井寛先生は、この書籍を

末期癌に侵された状態で、執筆されています。

症状は、かなり進行していたため、

眼も見えず、下半身は全く動かない状態だったそうです。

 

この書籍の存在こそが、死に迫る生命の危機にあっても

人間が、不安、痛み、苦痛、恐怖に押し流されるのではなく、

死ぬ直前まで、自己実現に取り組み続けることができる、証拠なのです。

 

わたしは、この書籍を読むと、

人間が、どのような過酷な環境に置かれても、

自由意思で、前向きに、努力を続けることができる存在であると、

勇気づけられます。

 

また、本文では、治療事例を通して、

神経症の症状、対話の内容、患者の変化などが、記載されており、

たいへん参考になります。

 

厳しい環境の中、不安を受け入れつつ、前向きになりたい方にとっては

多くの気づきがある書籍ではないかと思います。

 


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